ロタワクチの定期接種化 [感染症]

定期接種化めぐる検討、ロタワクチンも-承認受け予防接種部会
厚生科学審議会感染症分科会の予防接種部会は27日、昨年7月まで製造販売承認されたワクチンがなかったロタウイルスワクチンの定期接種化に向けた効果検証に着手することを決めた。

同部会では現在、子宮頸がんを予防するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンなど、7種類のワクチンの定期接種化を検討している。
検討が始まった当時、製造販売承認を取得していたロタウイルスのワクチンはなかったが、昨年7月にロタリックス、今年1月にロタテックが相次いで承認された。

ロタウイルスワクチンの定期接種化に向けた検証は、7種類のワクチンと同じ手順で進める。
まず、国立感染症研究所が中心となって、疫学情報などをまとめた「ファクトシート」を作成。
その後、予防接種部会の下部組織である「ワクチン評価に関する小委員会」の下に作業チームが設置され、ファクトシートに基づいて、予防接種法上どのように位置付けるべきかをまとめる。
作業チームは、予防接種部会に検討結果を報告。
同部会は、定期接種化の是非をめぐる議論を年明けにもスタートさせる見通しだ。

出典 Care Net.com 2012.1.30
版権 Care Net

http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=26121&keiro=dcem120130

HPVワクチン接種スケジュール [感染症]

HPVワクチン接種スケジュール、0・3・9ヵ月または0・6・12ヵ月でも
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチン接種について、3回の接種を標準スケジュールの初回接種0・2・6ヵ月ばかりでなく、 0・3・9ヵ月や0・6・12ヵ月で行っても、効果は非劣性であることが確認された。
米国・ワシントン州シアトルのPATHに所属するKathleen M. Neuzil氏らが行った無作為化非劣性試験によるもので、JAMA誌2011年4月13日号で発表した。

ベトナム21ヵ所の学校に通う11〜13歳903人を対象に試験
研究グループは、2007年10月〜2010年1月にかけて、ベトナム21ヵ所の学校に通う11〜13歳の女生徒903人について、オープンラベルクラスター無作為化試験を行った。
研究グループは被験者を無作為に、HPVワクチンを「標準接種(0・2・6ヵ月)」「0・3・9ヵ月」「0・6・12ヵ月」「0・12・24ヵ月」のスケジュールで接種する4群に割り付けた。

3回目接種後1ヵ月に血清抗HPVの幾何平均抗体価(GMT)を調べ、標準接種に対する非劣性試験を行った。
各接種群GMT値の標準接種群GMT値に対する割合を調べ、95%信頼区間の下限値が0.5以上であれば非劣性が認められると定義した。

被験者のうち、HPVワクチン接種を1回以上受け、3回接種後1ヵ月の時点で血清検査を行ったのは809人だった。

0・12・24ヵ月の接種スケジュールでは非劣性は認められず
結果、標準接種群の3回接種後のGMT値は、HPV-16が5808.0(95%信頼区間:4961.4〜6799.0)、HPV-18が 1729.9(同:1504.0〜1989.7)だった。
それに対し、9ヵ月スケジュール群のGMT値はそれぞれ5368.5(同:4632.4〜 6221.5)と1502.3(同:1302.1〜1733.2)、12ヵ月スケジュール群はそれぞれ5716.4(同:4876.7〜6700.6)と 1581.5(同:1363.4〜1834.6)と、いずれも標準スケジュール群に対する非劣性が認められた。

一方で、24ヵ月スケジュール群については、3692.5(同:3145.3〜4334.9)と1335.7(同:1191.6〜1497.3)で、標準スケジュール群に対する非劣性は認められなかった。

Neuzil 氏は「このベトナムの青年期女児において、HPVワクチン投与は標準または選択スケジュールにおいても、免疫原性、忍容性ともに良好であった。
標準接種法(0・2・6ヵ月)と比較して、2つのスケジュール法(0・3・9ヵ月、0・6・12ヵ月)は、抗体濃度について非劣性であった」と結論している。
                   (當麻あづさ:医療ジャーナリスト)
原文
Neuzil KM et al. Immunogenicity and reactogenicity of alternative schedules of HPV vaccine in Vietnam: a cluster randomized noninferiority trial.
JAMA. 2011 Apr 13;305(14):1424-31.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21486975

出典 Care Net.com 2011.4.26
版権 Care Net

新しいメカニズムの抗インフル薬 富山化学 [感染症]

富士フイルムのグループ会社である富山化学工業株式会社(東京都新宿区、菅田益司社長)はこのほど、従来の抗インフルエンザウイルス薬とは異なる新しいメカニズムを有する薬剤について、厚生労働省に製造販売承認申請を行ったと発表した。

富山化学工業が開発し、今回承認申請したのは、錠剤タイプの「T−705」(一般名:ファビピラビル)という抗インフルエンザ薬。
成人のA型およびB型インフルエンザに感染した患者に対する治療効果がこれまでの臨床試験で確認されたことから、これらA型およびB型インフルエンザウイルス感染症治療の適応取得を目指して承認申請を行った。

富山化学工業によると、インフルエンザウイルスは感染した細胞内で複製を作り、増殖・放出して他の細胞に感染を拡大する。
タミフルやリレンザなどの従来の抗インフルエンザウイルス薬は、その放出を阻害することで感染拡大を防ぐノイラミニダーゼ阻害剤と呼ばれる。
一方、T−705は細胞内でウイルスが複製を作ることを阻害するメカニズムで拡大を防ぐ。
このような仕組みで作用する薬剤をNAポリメラーゼ阻害剤という。

非臨床試験では、豚由来の新型インフルエンザを含むA型や、B型・C型の季節性インフルエンザだけでなく、ノイラミニダーゼ阻害剤の耐性ウイルスや鳥由来の高病原性ウイルスなど幅広いウイルスの型に対しても効果があることが示されているという。

http://www.carenet.com/news/det.php?nws_c=20760


ヒブなど2ワクチン、4月1日に接種再開へ - 厚労省 [感染症]

インフルエンザ菌b型(ヒブ=Hib)ワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンなどの同時接種後の死亡が相次いで報告された問題で、ワクチン接種と死亡との因果関係を評価する厚生労働省の専門家会議は3月24日、「いずれも明確な因果関係は認められない」との意見をまとめた。
これを受け、厚労省は4日から見合わせていた両ワクチンの接種について、4月1日からの再開に向け、必要な注意喚起の検討や接種の実施主体である自治体との調整を進める。

ただし、ワクチン接種後の死亡7例のうち3例で先天的な心疾患があったことを踏まえ、重篤な基礎疾患がある人に接種する場合には、基礎疾患の状態を慎重に確認するよう呼び掛けるべきだとの認識で一致した。

会議ではまず、接種後の死亡7例について厚労省の担当者が説明した。
それによると、死亡したのは0−2歳の乳幼児。解剖などの結果、接種と死亡との因果関係が認められた例はなく、急性感染症による死亡や乳幼児突然死症候群(SIDS)などの可能性が指摘された。
 
また、死亡例の報告頻度は、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン共に10万接種当たり0.1−0.2。一方、諸外国での報告頻度はヒブワクチンが0.02−1、小児用肺炎球菌ワクチンが0.1−1程度で、大きな違いはなかった。
 
こうしたデータを踏まえ、同会議では「国内でのワクチン接種の安全性に特段の問題があるとは考えにくい」と結論付けた。
同時接種については、国内外からデータを収集したところ、単独接種に比べて重篤な副反応が多いとの報告はなく、「特に安全性上の懸念は認められない」と判断した。


■ヒブワクチン、異物混入と死亡例の関連性なし
また同会議では、一部のヒブワクチンの添付溶剤のシリンジ内で異物が見つかった問題について、死亡との関連はないと判断した。
製造販売業者のサノフィパスツールと販売業者の第一三共は11日から、異物混入があったシリンジと同一工程で製造された製品も含め、自主回収を進めているが、一連の死亡例のうち3例で、回収対象のロットのヒブワクチンが使用されていた。

サノフィパスツールは同会議に、
▽異物の原因となった素材メーカーの試験結果から危惧される健康被害は、「痛みを伴うか伴わない局所刺激」である
▽回収対象ロットが使用された死亡例については、製品への異物混入など異常がない上で接種したことを医師から確認している
—と報告した。
( 2011年03月24日 22:06 キャリアブレイン )
https://www.cabrain.net/news/article.do;jsessionid=28708268A4D35CCBF0623A106B0E457B?newsId=33232


急性HIV感染症 [感染症]

■重篤な急性熱性疾患やインフルエンザ様の症状や伝染性単核球症様の症候群、無菌性髄膜炎などが疑われた場合には、急性HIV感染症の可能性も念頭に置く。

■急性HIV感染症では、初感染から2~4週間ぐらいに、半数以上で何らかの急性感染症状を呈するといわれている。

■身体所見では特に皮疹、粘膜皮膚潰瘍、リンパ節腫脹などに注意する。

■急性HIV感染症を疑う場合にはHIV抗体だけではなく、HIV-RNA検査まで行う必要がある。

■逆に、完全に感染を否定するためには暴露後2か月で抗体陰性であることを確認する。

■持続するウイルス性感染が疑われるときは、HIV感染も念頭に置く。


参考
Nikkei Medical 2008.6

<私的コメント>
数年前に中年男性で急性HIV感染症の症例を経験しました。
病院では高熱が続く患者にはHIVルーチンで検査をするのかも知れませんが、開業医では保険の制約もあってなかなか出来ません。
結局確定診断するのに1か月かかってしまいました。
忘れ得ぬ症例です。

インフルエンザワクチンの作用メカニズム [感染症]

インフルエンザワクチン働く仕組み解明、阪大
インフルエンザワクチンが働く分子レベルの仕組みを大阪大などのグループがマウス実験で突き止め、31日付の米医学誌電子版に発表した。
日本で使われるワクチンは、インフルエンザへの感染歴がないと効果が低いことが判明。
石井健招聘教授は「副作用が少なく有効性が高い次世代ワクチンの開発が必要になるだろう」と話している。
 
インフルエンザウイルスを認識するセンサーを持つ免疫細胞の3受容体に着目。受容体がないマウスにさまざまなワクチンを投与すると、「TLR7」というリボ核酸(RNA)の受容体がワクチンの効果に必須であることが分かった。
 
日本でワクチンに使われる「不活化スプリットワクチン」は、自然免疫の活性化がほとんど見られず、効果が低かった。
感染歴がある人では免疫が再び活性化し、有効なことが人の血液の実験で判明したが、感染歴のないマウスにこのワクチンだけを投与しても感染を防げず死亡した。

出典 産経ニュース 2010.4.1
版権 産経新聞社


<関連サイト>
インフルエンザワクチンの現状と課題
http://www5.kcn.ne.jp/~obk-s/makoto.140/hondai.html
■日本の不活化インフルエンザワクチンはスプリットワクチンという種類です。
副反応の主な原因と考えられているエンベロープ中の脂質をエーテルで取り除き、主にHA画分を集めたものです。
エーテル処理後にホルマリンを添加し、ゾーナル精製してHA画分を採取したものがHAワクチン原液となります。

■米国の予防接種諮問委員会では、上に述べた接種対象者以外にも、小児や妊婦に対してワクチンを推奨しているのが特徴です。
妊婦がインフルエンザに罹患すると重症化しやすいことは知られていますが、米国のようにワクチンを推奨している国は多くありません。
調査した56カ国中、14カ国だけが妊婦への接種を推奨していました。

■生後6ヶ月以上の乳幼児でも、ワクチン接種により発症を阻止できるだけの抗体価を得ることができます。
しかし、発症阻止に対するワクチンの有効性は、研究報告により大きな違いがみられます。
ほとんど有効性が認められないとする報告から、90%以上の有効性を示したとする報告まで様々です。
年齢が高い小児ほど効果があり、1回接種では効果が小さく、2回接種で有効性を示すというのが共通した認識です。
日本でも最近、国が研究班を組織して乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果を調べました。
そこで得られた結論は、1歳未満児については有効性を示す確証は得られませんでしたが、1歳以上6歳未満児については、発熱を指標とした有効率は20~30%となりました。
この値は低いようですが、この年齢層はワクチン接種後にインフルエンザ以外の感染症に罹患することも多く、実際の有効性はこの値よりも高いと考えられます。

■64歳以下の成人における有効性
この年齢層は過去に何度もインフルエンザに罹患し、またワクチン接種を経験していますので、インフルエンザウイルスに対する特異的な免疫記憶を有しています。
したがって、ワクチン接種により強いブースター効果が得られ、ワクチンの有効性が最も期待できる年齢層です。
ワクチン株の抗原性が流行株と一致した場合、インフルエンザワクチンは約70%~90%の発症阻止が期待できます。
一致していない場合でも、50%から80%近くの有効性があったという多くの報告があります。

■65歳以上の高齢者における有効性
この年齢層は、必ずしもインフルエンザに罹患しやすいということはありませんが、発症すると最も重症化し、死亡者も多く出るグループです。
死亡阻止を第1の目的と考えると、ワクチンをこのグループに優先して接種するのは当然だと考えられます。
高齢者や何らかの基礎疾患を有する人達のワクチン接種後の抗体応答は、健康な成人における抗体応答よりも悪いといわれています。
また、年齢が高くなるほどワクチンの発症阻止効果は弱くなると考えられています。
しかし、ワクチンが高齢者の重症化阻止や死亡阻止に有効なことは多くの論文で証明されています。
米国の代表的な論文をまとめると、ワクチンは発症や入院を阻止する効果は50%位ですが、死亡阻止効果は70~80%はあるとされています。

麻疹に対する母子免疫 [感染症]

麻疹に対する母子免疫は生後半年で消失
ワクチンの早期接種が重要
アントワープ大学(ベルギー・ウィルレイク)ワクチン・感染症研究所ワクチン評価センターのElke Leuridan氏らは,妊産婦とその乳児らを対象とした前向き研究を行い,出生後,母体から受け継いだ麻疹抗体は生後半年で消えることがわかったとBMJ(2010; 310: c1626)に発表した。
同氏らは,乳児の生後12か月未満の時期における麻疹ワクチン接種について議論すべきであると提案している。

生後1年で抗体陽性例は皆無
Leuridan氏らは,2006年4月からベルギーのアントワープ州にある5病院で,健康な母親と乳児207組を対象に乳児に対する麻疹抗体の母胎免疫持続期間を検討した。

医療記録から母親を,
(1)乳児期に麻疹ワクチンを接種されたワクチン群
(2)幼少期に麻疹に感染して自然免疫を獲得した自然抗体獲得群
―の2群に分けた。
麻疹の抗体価は妊娠36週時,出生時(臍帯血)に母親から採血された。
乳児は,生後1か月,3か月,12か月時に加えて,6か月または9か月時のいずれかでランダムに採血して評価した。

その結果,自然抗体獲得群の女性に比べ,ワクチン群の母親では有意に抗体価が低かった。
同様に,自然抗体獲得群の母親の乳児に比べてワクチン群の母親の乳児では,抗体価が低かった。

母親由来の抗体の持続期間を見ると,自然抗体獲得群の乳児で平均2.61~3.78か月であったのに対し,ワクチン群では0.97か月であった。

さらに,生後6か月時では,ワクチン群の乳児の99%以上で抗体が消失しており,自然抗体獲得群でも95%では母親由来の抗体が消失していた。
また両群とも生後9か月と12か月時に抗体陽性であった乳児は皆無であった。

接種の前倒しの検討を
Leuridan氏らは「母乳哺育,出生時体重,教育レベル,帝王切開,デイケアの参加率が,母親由来の抗体持続期間に影響を及ぼすことはなかった。
今回の研究結果により,ワクチン群も自然抗体獲得群も,乳児は早期に麻疹に感染しやすくなっていることがわかった」と述べている。

もし,今後の研究で麻疹ワクチンを生後9か月未満の乳児に接種して効果が得られれば,政策立案者はルーチンの麻疹ワクチン接種スケジュールを前倒しにすることを検討してもよいと考えられる。

現行の政策によると,麻疹ワクチンの早期接種の適用は,
(1)麻疹が発生した場合
(2)麻疹に感染した兄弟姉妹と接触した場合
(3)移住や旅行で麻疹流行地域に立ち入る場合
―などとされている。

同氏らは「最も重要なのは,1回目の麻疹ワクチンを適切な時期に接種することだ」と結論付けている。

出典 Medical Tribune 2010.8.5
版権 メディカルトリビューン社





細菌性髄膜炎の診療ガイドライン [感染症]

細菌性髄膜炎の診療ガイドライン
http://www.neuroinfection.jp/pdf/guideline101.pdf

急性細菌性髄膜炎
http://merckmanual.jp/mmpej/print/sec16/ch218/ch218b.html




初診開業医に賠償命令…鳥取

患者死亡「問診が不十分」
髄膜炎の症状を見過ごされ、治療の遅れから転院先で死亡したとして、鳥取県境港市の男性会社員(当時40歳)の両親が同市内のたけのうち診療所(閉鎖)の50歳代の男性医師に慰謝料など約7500万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が13日、地裁米子支部であった。

村田龍平裁判長は「十分な問診と、設備の整った医療機関への移送を怠った過失があった」として、医師に約5600万円の支払いを命じた。

判決によると、男性は2001年12月、高熱や嘔吐の症状を訴えて初めて同診療所で受診。
解熱剤などを処方されて帰宅したが、症状は悪化し、翌日に救急搬送された病院で細菌性髄膜炎と診断された。
その後、意識が回復しないまま、転院先の病院で05年1月に多臓器不全で死亡した。

診療所では、感染症検査などを外部に委託しており、村田裁判長は「髄膜炎と断定することは困難だった」としたうえで、「髄膜炎を疑って特有の症状を確認するなどし、病院での検査を勧めていれば死亡は避けられた」と判断。
一方で「過失がなくても後遺症が残った可能性がある」として損害額の3割を減じた。

原告側の高橋敬幸弁護士は閉廷後「初診患者に対する問診の不十分さと死亡との因果関係が認められるのは極めて珍しい。初診の重要性を開業医に投げかける判決だ」と話した。

被告側の川中修一弁護士は「短時間の診療で髄膜炎と見抜くのは難しい。医師と相談し、控訴を検討する」としている。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=30791
出典 読売新聞 2010.9.14
版権 読売新聞社

不毛なアシネトバクター騒動 [感染症]

帝京大病院で、院内感染によりアシネトバクター菌に集団感染したことについて、現場の冷ややかさとは対照的に、新聞は連日、熱心に報道している。
日々、全国の医療機関でアシネトバクターが新たに検出されたことが発表されているほか、帝京大では9月8日、救急や新規入院の受け入れを中止する事態にまでなった。
だが、医療界からは今回の騒ぎを疑問視する声も少なくない。

感染症に詳しい青木眞先生へのインタビュー記事からです。

 * * *
■アシネトバクターに関する騒動を見て、「この国は予想通り新型インフルエンザから何も学習して来なかったな…」と思いました学習する構造を持たない組織はMRSA、HIV、SARS、新型インフルエンザと同じ誤りを繰り返すのです。
恐らくこれからも。

■今回、騒動になっているアシネトバクターという菌は、濃厚に抗菌薬を使わざるを得ない高度医療の場では、多かれ少なかれ見つかる可能性の高い菌です。
探し回れば、これから色々な医療機関で見つかってもおかしくありません。
またアシネトバクターはもともと抗菌薬に対して耐性が強い菌です。
「多剤耐性アシネトバクター」というと何か恐ろしいイメージですが、「生まれつき耐性がある菌が、また少し追加で耐性を獲得した」という程度の話で、珍しさでいえば、「ある大きな病院に行ったら新世代のMRIがあった」というのに近いレベル。
「もともとそんなものなのに、何を騒いでいるんだろう」というのが私の率直な感想です。
生まれつき抗菌薬が効きにくい菌を「耐性だ」と大騒ぎし、不必要に恐れるのはどうなのでしょうか。医療現場としては比較的良くある風景のはずです。
前からあることを、今になって突然持ち出して、無理に問題にしているように感じます。

感染症は耐性よりも、生命や健康のアウトカムが問題
■もちろん、薬が効かなくなるというのは、患者さんの状態により対処しづらくなることではあります。
ですが、一連の報道は、あまりに「薬が効かない」という点だけが注目され、この耐性菌が臨床現場にどの程度のインパクトがあり、患者さんにどの程度の脅威になるかという視点が抜け落ちています。

■かつて、同様に耐性菌で騒がれたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、もともと凶暴で病原性の高い黄色ブドウ球菌に抗菌薬が効きにくくなったという点でテロリストが大きなナイフを手にした感じがありました。
それに対し今回の耐性アシネトバクターは、100歳を超えたご高齢の方がナイフを持たされてただ座っているようなもの。
周囲にいるほとんどの人にとってはさしたる危険性はありません。
アシネトバクターはもともと、人に危害を与える能力の低い菌なのです。

■病院には、免疫力の落ちた人が狭い空間に集まりますから、アシネトバクターもそれなりの脅威にはなり得ます。
ただ、仮にアシネトバクターが培養で検出された方が亡くなったとしても、本当にアシネトバクターの感染症によって亡くなったのか、もともとの疾患、例えば末期癌が悪化したためだったのかは、適切な臨床的、疫学的な検討が無ければ分かりません。
そのような意味ではアシネトバクターは「患者さんの状態が非常に悪いですよ」という標識・マーカーのような存在なのです。私がよく「アシネトバクターは殺し屋ではなくて葬儀屋」であるという所以です。

■帝京大病院を批判するならば、入院患者数、重症度も加味した上で、多剤耐性のアシネトバクターでどれだけの方が亡くなっているのかを考えていく必要があるのです。
そのような疫学的なコモンセンスが今の日本には欠けているのではないでしょうか。
現在、「抗菌薬が効かない」ということが、「患者さんの死亡率上昇」とイコールで考えられているような気がします。
抗菌薬が効く効かないだけではなく、それが患者さんの生命や健康にどのような影響を与えるかを考えていかなければいけません。

何を調査し、その結果をどのように生かすのか?
■感染管理の世界では、アシネトバクターが問題になる背景やその対処法などは既に分かっています。やるべきことの概略は分かっているのです。
厚生労働省はアシネトバクターの発生状況について、実態調査を行う方針のようですが、限られた医療資源で苦闘する忙しい現場に新しい負荷報告義務を課して何を達成しようというのでしょうか?

■そもそも、疫学的専門性のない人が行う実態調査は、恐らくその方法にも、結果の判定法にも多くの問題を抱えているはずですから、新しい対策が生まれる可能性はほとんどありません。
新たな調査研究を始める予算があるならば、それを感染管理の看護師を増やすことに使った方が余程効果的でしょう。

■繰り返しになりますが、耐性アシネトバクターは高度医療の副産物的な要素が極めて強いものです。重症の患者さんを守ろうとして、丁寧に培養検査をするからアシネトバクターは見つかるだけのこと。いい加減に抗菌薬を使い、培養もしない病院では見つかりません。
さらに言えば、アシネトバクターが検出されたからといって、業務上過失致死容疑などで警察が介入するようなことになれば、医療機関が取る策は「培養しない」「重症患者は受け入れない」という萎縮医療です。
そして、最後に割を食うのは患者さんなのです。


青木眞先生
略歴
沖縄県立中部病院内科、ケンタッキー大学感染症内科、 聖路加国際病院感染症科などを経て、2000年より感染症コンサルタント(米国感染症専門医)、サクラ精機学術顧問。


出典  NM online 2010.9.13
版権 日経BP社

成人百日咳の診断方法 [感染症]

ペア血清で4倍以上の上昇を確認することが診断の基本となるが
①症状が出始めて受診するまでの期間が長く、初回の受診時にはすでに抗体価が高い。
②2回目の受診や検査が難しい
③検査で使用されるキットのLot差も大きい
など、凝集素検査には多くの課題がある。

(国立病院機構福岡病院統括診療部長 岡田賢司先生)
出典 日本医事新報 No.4467 2010.8.21 P78-79
版権 日本医事新報社


<関連サイト>
IDWR:感染症の話 百日咳
http://medical.radionikkei.jp/abbott/final/pdf/050311.pdf

百日咳の診断と予防 その1(1/2)
http://wellfrog4.exblog.jp/13819446/

百日咳の診断と予防 その2(2/2)
http://wellfrog4.exblog.jp/13819414/



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